2019
ヨーヨーの決断
2019年2月


ヨーヨーの決断

筆者はアメリカ合衆国イリノイ州在住です。

「みたまは小さな声でみちびく。」(『子供の歌集』144-145)

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ヨーヨーの決断

リアとママがもうすぐ買い物を終えようとしているときに,ママは立ち止まって服を見始めました。

「ちょっとだけ」とママは言いました。

リアはため息をつきました。ママが「ちょっとだけ」と言うときに,20分もかかることがあるからです。

リアは近くにおもちゃのたなを見つけました。ぬり絵の本をめくってから,よくはずむボールを何回か放り上げました。でも,すぐにあきてしまいました。

それから,リアは光る丸い物を取り出しました。ヨーヨーです。先週オスカーが学校に持って来たのとちょうど同じようなヨーヨーでした。オスカーは休み時間に派手なわざをみんなに見せていました。わざには,「犬の散歩」「世界一周」などの名前がついていました。リアは,やってみてもいいかたずねましたが,オスカーはやらせてくれませんでした。

リアは糸の輪を指にはめました。ヨーヨーをたらして,オスカーがやっていたように糸を強く引っぱりました。ヨーヨーはガチャンという音を立ててゆかにぶつかりました。もう一度やってみました。何回かやっているうちに,ヨーヨーを手にもどせるようになりました。こんなにすぐにできるようになるなら,きっとオスカーのやっていたすべてのわざをできるようになるでしょう。

そのとき,リアは値札を見ました。顔をしかめました。そんなお金は家の貯金箱にはありません。

「もうすぐよ」とママが大きな声で言いました。

リアはため息をつきました。ヨーヨーをもどそうとしたときに,ある考えが頭にうかびました。ヨーヨーはあまり大きくありません。そっとポケットに入れて自分のものにできるではありませんか。店主は見ていません。だれも気づかないでしょう。ずっと自分のもとに置いて,新しいわざを学べるかもしれません。そうすれば,学校の子供たちからかっこいいと思ってもらえます。

リアは手の中のヨーヨーを見下ろしているうちに,むねがチクチクして,きんちょうしました。あせまみれの手でヨーヨーをギュッとにぎりしめました。このいやな気持ちは何でしょう。消えてほしいと思いました。

そのときリアは,バプテスマを受ける前にお父さんから言われたことを思い出しました。

「バプテスマを受けた後,せいれいの賜物を受けるんだよ」とお父さんは言いました。「せいれいは,良い選びができるように助けてくださるんだ。せいれいは静かな細い声で語りかけられるんだよ。」

「せいれいは話しかけてくれるの?」とリアはたずねました。

「ちょっとちがうよ」とお父さんは言いました。「考えがうかんだり感情が心にわいたりするんだ。」

「どんな気持ちがするの?」

「人によってちがうよ」とお父さんは言いました。「でも,良いことをすると,せいれいはその人がおだやかな気持ちや平安を感じられるようにしてくださるんだ。きけんがせまっているときには,警告してくださる。間違ったことをしようとしていたら,せいれいは去って,こんらんしたり不幸せな気持ちを感じるんだ。」

リアはヨーヨーを見下ろしました。とてもほしいと思いました。でもせいれいが,ぬすむのは悪いことだと教えてくれているのだと分かっていました。

リアはヨーヨーをたなにもどしました。そのとたん,平安と温かい気持ちを感じました。お母さんのところに帰ると,

「終わったわよ」とお母さんが言いました。「行きましょう。」

リアはにっこりしました。「うん。」

店を出るとき,リアは太陽のように明るく幸せな気持ちがしました。ヨーヨーは少しの間は楽しいかもしれません。でも,リアはいつもせいれいにしたがいたいのです。